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最高裁判所第三小法廷 昭和33年(オ)31号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人小山昇の上告理由第一点について。

原審が上告人、被上告人の判示主張に対し、論旨指摘の如く判示し、もつて上告人の請求を排斥したことは所論のとおりである。

しかし当事者の主張について、その事実なしとして排斥する場合には、直接その事実を否定する手段として、当事者双方の主張と異る事実を認定し、または主張しない事実を認定して、その事実の存在から間接に当事者の主張事実の存在を否定することは、民訴一八六条乃至弁論主義に違反するものではない(大審院昭和一一年(オ)第九二三号、同年一〇月六日判決、民集一五巻一七七一頁参照)。原判決に所論の違法は存せず、論旨は採るを得ない。

同第二点について。

上告人と被上告人先代牧慎平との間に成立した判示契約における大本教本部とは、当時官憲の弾圧に因り潰滅の状態にひんしていた大本教が、将来再興した場合の本部即ち本件の宗教法人愛善苑を指すものであることは、原判文上明らかであり、またいわゆる第三者のためにする契約において、その第三者はたとい契約の当時に存在していなくても、将来出現するであろうと予期した者をもつて第三者となした場合でも足りるものと解すべきであるから(大審院大正七年(オ)第六五一号、同年一一月五日判決、民録二一三一頁参照)、右判示契約の場合にあつても、右契約の当時前記宗教法人愛善苑が存在していなくても、何等右契約の成立は左右されないものといわねばならぬ。原判決に所論の違法は存せず、論旨は採るを得ない。

同第三点について。

原判決が所論甲第一号証ノ二「誓約書」に記載されている「御指名ノ方ニ」なる文言を専ら大本教本部を指すものと解したことは、証拠関係からこれを是認できるところであり、また右大本教本部とは、当時潰滅状態の大本教が将来再興された場合の本部(即ち本件の宗教法人愛善苑)を指すものであることは右第二点に述べたとおりである。

論旨は結局原審の適法になした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採るを得ない。

同第四点について。

原判決における所論大本教本部とは何を指すかは、右第二点に述べたとおりであり、原判決に所論の違法は存せず、論旨は採るを得ない。

同第五点について。

原判決は本件不動産に対する上告人主張の単独所有権乃至判示契約に基く本件所有権移転登記請求権を排斥し、一方本件不動産は前記亡牧慎平が上告人の世話で訴外平島はなからその資金を借り入れて、自己のために買い入れた事実を否定し、本件不動産については上告人と右牧慎平との間に登記簿上の所有名義は一応右牧慎平とするが、上告人から大本教本部に名義書替をするよう指示があれば、いつでもこれに応ずることの約の下に右牧慎平が訴外岡本賢二からこれを買受けた旨認定しているのであるから、その間に何等上告人主張の如き違法は存せず、論旨は採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 五鬼上堅磐)

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